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“9月12日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

*1872=明治5年  わが国初めての鉄道が新橋―横浜間に開通した。

当初、開業は重陽の節句の9月9日を予定していたが暴風雨のため延期され、この日が正式な開業日となった。(新暦:10月14日が鉄道記念日)開業式の行われる新橋ステーションには大勢の見物人が朝早くから押しかけた。構内には事前に発売した祝賀列車の入場券=切符を持っていないと入れなかったが国家的大事業で初の鉄道開通式ということで上等の赤券と中下等の白券があったがどちらも早くから売り切れた。

式典には明治天皇や皇族、政府関係者を迎えて華々しく挙行され、そのあとは天皇の乗車を待ってそれぞれの車輌に乗り込んだ。午前10時、日比谷操練所に待機していた近衛砲兵隊が放つ祝砲を合図に汽笛一声、歓呼に送られて祝賀列車が新橋駅を出発した。品川沖の軍艦も祝砲を次々に撃ったからあたりは大変な騒ぎになった。機関車はイギリスから輸入され機関士もイギリス人だったから出発合図は英語だったかも。連結された車輌も同じくイギリス製で定員は上等が18人、中等が26人、輸入後に中等用を下等用に改造してこちらは52人だった。いずれも前後に車軸がある2軸車で台車と車輪以外の車体は木製だったので改造には日本人大工が腕をふるった。

車内はピカピカに磨きあげられていて草履を脱いで車内に入ろうとする乗客も多く、ひともんちゃくあったが無事出発、53分後に横浜に到着した。それまで東京と横浜はほぼ一日がかりというのが常識だったからここでもひと騒ぎ。一部の乗客があまりに早過ぎると言い出して「横浜はもっと先だぞ」と降りようとしなかった。横浜でもまた式典があって正午に出発、無事に新橋へ戻ってきた。さすがに祝賀列車は招待客も多かっただろうが、東京・横浜間の料金は上等1円12銭5厘、中等75銭、下等37銭5厘だった。下等の37銭は米5升半=約10kgに相当したというからかなり割高だった。

蒸気の力で<飛ぶがごとく走る>ところから「陸蒸気=汽(おかじょうき)」と名付けたのは福沢諭吉とされる。機関車、車輌、レールなど機材すべてをイギリスから輸入した。しかも機関士から始まって車輌の整備やダイヤ編成なども高給を払って迎えた「お雇い外国人」に頼らざるを得なかった。初めての鉄道建設で多摩川の六郷橋梁は外人技師に設計させたこともあって工事も大幅に遅れた。それを皮肉ったものやさまざまな歌が流行った。

  『しょんがいな節』
  道はできたが 蒸汽車(じょうきぐるま)はまだかいな
  道も車もできしだい できたらたんと乗れ
  陸蒸汽 しょんがいな

開通したあとは『世の中よござんしょ節』
  航海開けて道まで開け 馬車や人力車
  まだまだよいのが陸蒸汽 トコ世の中よござんしょ

  『開化気楽節』
  鉄道車は船より速い 波が立たぬで気が楽な

  お座敷のざれ歌では
  陸に蒸汽の出来たるせいか 主は私をステーション
  恋の重荷を車に乗せて 胸で火をたく陸蒸汽

どこにいっても陸蒸気の話題で持ちきりだったのが歌からもうかがえる。それにしてもこのざれ歌、「あなた私をステたのね」なんてステーションにかけるとはうまいですなあ。

*1940年  フランス西南部のラスコー古代の洞窟壁画が見つかった。

地元の少年4人が探検に潜り込んだ洞窟のなかで壁に描かれた大量の動物などの絵を見つけた。数百点にものぼる馬や野牛、山羊、羊、鹿などを壁面の凹凸を利用して描くことで立体感を表現しただけでなく巧みな遠近法も確認された。狩りをする人間や、なぜか顔料を吹き付けて押した手形が500点も残されていた。専門家の調査で洞窟から人骨なども発見され、1万5千年前の「クロマニヨン人」が描いたものとわかった。スペインの「アルタミラ洞窟」と並ぶ先史時代の遺跡として一時は多くの観光客が押し寄せた。1979年にユネスコの世界遺産に登録される際には周辺の洞窟なども詳しく調査され、ラスコー洞窟を含む40キロの渓谷地帯の洞窟などすべてが「ヴェゼール渓谷の先史的景観と装飾洞窟群」として一括登録された。

たしか持ち込まれたほこりや吐く息に含まれる炭酸ガスなどの影響で劣化が心配されて閉鎖されているはず。旅行ガイドなどで調べてみたら現地のレゼジー村に「国立先史博物館」や「ラスコー2」という展示施設が出来ていた。「11年の歳月をかけて実際の洞窟を寸分違わず再現」しているそうで「美しさや躍動感は本物と変わりません」とか。バスツアーが出発するサルラへはパリから1日、ツアーが丸1日かかる。現地ホテルに泊まっての2泊3日のオプショナルツアーだからよほどのマニアでないと。それと「クロマニヨン人」はとっくの昔に絶滅したから現地に行っても会えません、念のため。

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