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季語道楽(16)ラテンを聴きながら、心は柳橋か神田明神か 坂崎重盛

いつの間にか梅雨が明けて、七月に入ってからの連続の猛暑日は、気象台の観測はじまって以来、だそうですが、どうもこのごろ「統計をとりはじめて以来」ということが多くありません? 異常気象が、こうも続くと“異常”が通常になってしまう。

なんてことを書いても頭がボーッとしている。喫茶店の二階にいるのでクーラーは効いているのだが、窓から外を見ると、白熱したような炎天。日傘の人の影がネットリと濃い。街路の植込みのタチアオイの花が、なにか道行く人を嘲笑うかのように咲いている。

梅雨どきは「我こそ季節の花」と咲き誇っていたアジサイも、この猛暑でたちまち干上がって枯れてしまった。夏本番の到来。

梅雨どきは「我こそ季節の花」と咲き誇っていたアジサイも、この猛暑でたちまち干上がって枯れてしまった。夏本番の到来。

BGMが眠けを誘うのか、店内、少し前まではハービーハンコックかなんかのクロスオーバー系がかかっていたのに、今日は、ラテン、タンゴだ。実は好きなんですよ、子供のころに聴いていた、このての音楽。「ラ・マラゲーニア」とか「ジェラシー」とか。いまかかっているのは「アモール・アモール」か……。気持ちよくて、眠くなる。

半分寝惚けた状態で歳時記のページをめくっていく。ま、これもまた盛夏の昼下がり的な気分といえましょうか。

省エネの推奨植物、ゴーヤ(ニガウリ)の棚。すでに小さな黄色い花をつけている。正式名はツルレイシ(ウリ科)。

省エネの推奨植物、ゴーヤ(ニガウリ)の棚。すでに小さな黄色い花をつけている。正式名はツルレイシ(ウリ科)。

閑話休題、夏の季語。夏負けせぬよう食欲系からいきますか。

「麦飯」これが夏の季語。麦飯なんて秋でも冬でも食べるぞ、などと言っても、これは夏の季語なのです。理由? ないわけではない。

最近はヴィタミン剤の普及で、あまり聞かなくなりましたが、脚気(かっけ)、この脚気予防として夏に麦飯を食べる。で、夏の季語。

「鮨」だって、いつで結構、いただきます、といいたいところですが、こちらも夏の季語。鮨はかつては保存食だから、夏。

例句を見てみよう。

蓼添へて魚新たなり一夜鮓   三宅孤軒

鯛鮓や一門三十五六人      正岡子規

鮓押すや貧窮問答口吟み    竹下しづの女

やはり、この鮨は押し酢ですね。握りでは季節感が出ない。一句目、旨そうですね。蓼(たで)を添えるあたり。鮎かなんかの川魚の鮨でしょうか。

子規の句は、なんか目出たい感じがしますね。鯛鮓だからか、いや「一門三十五六人」の賑やかさだろう。

しずの女の句の「貧窮問答」は、もちろん、万葉歌人・山上憶良の「貧窮問答歌」。これを口ずさみながら鮓を作るというところに、そこはかとないユーモアを感じてしまうのはぼくだけでしょうか。

鮓をつくるつもりではないのに、この季節、ご飯がすえて、においを生ずることがある。「飯すえる」は季語になっている。もう少し俳味を感じるのが「飯の汗」

今日は、炊飯器ですぐにご飯がたけてしまうので「飯すえる」の

実感がなくなりました。子供のころ、少しすえたご飯は水で洗って臭いをとってからたべたものです。なんか懐かしい。同じ「洗い飯」「水飯(みずめし、すいはん)」いずれも夏の季語。

夏といえば、ビール(麦酒)。もちろん、夏の季語です。ビールといえば、かつては、ビヤホールは別として、生ビールは夏しか飲めなかった居酒屋がほとんどでした。だから一年中、生ビールが飲める店は貴重で、人を連れていって自慢したりしたものです。たとえば湯島天神したのTとか。

ところで「焼酎」、これが夏の季語。なぜって? これも理由がある。つまり「暑気ばらい」。日本酒ではだめなんです。暑気ばらいといえば、キュッとアルコールの度数の高い焼酎でなければ。

かと思うと「甘酒」も、この季節の季語だから、知らないと間違ったりする。かく言う自分も、また肌寒い梅見のときや雛祭りに、甘酒が出たりするので、つい早春あたりの季語かなと思っていました。

もともと甘酒は、夏の季節、麹に粥を加えて発酵させ(6〜7時間ほど)甘味を出す、これを沸騰させて飲む。ひと晩でできるので「一夜酒(ひとよざけ)」ともいう。

本来は、甘酒はあたたかい飲み物なのだが、甘酒といえば神田明神の鳥居脇の甘酒屋・天野屋糀店(こうじてん)では涼し気なグラスに入った冷やし甘酒を飲むことができる。女性に絶対喜ばれます。

「にんきや」の閉店にショックを受け神田明神の「天野屋」へ冷やし甘酒を求めて。その外観と冷し甘酒(450円)。このモロミもうまい。こちらは500円。

「にんきや」の閉店にショックを受け神田明神の「天野屋」へ冷やし甘酒を求めて。その外観と冷し甘酒(450円)。このモロミもうまい。こちらは500円。

冷やし甘酒、です。

冷やし甘酒、です。

そうか! この稿はこれくらいにして、人を誘って冷やし甘酒といくか! いや、この季節、柳橋の「にんきや」の白玉も、いいなぁ。この店、安藤鶴夫先生のごひいきでした。

——ということで白玉求めて柳橋に向かったのですが、念のためと、途中から電話を入れてみたら通じない。なになに!? ブログに「閉店」の書き込みが……。しまった!

「いつまでもあると思うな親と老舗」。

淋しいじゃないですか。そうか……ということでリベンジ気分で足はーー。

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