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“8月12日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

“8月12日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

*1993=明治26年  文部省は小学校の祝日等に用いる歌として『君が代』など8曲を公示した。

他は『勅語奉答』『1月1日』『元始祭』『紀元節』『天長節』などだったが文部省の公示は「小学校に於て祝日大祭日の儀式を行ふの際唱歌用に供する歌詞並楽譜別冊の通撰定す」とそっけなく翌日の読売新聞は「雑報欄」にベタ記事で報じただけだった。

審査選定にあたったのは祝祭日唱歌審査委員だが大揉めでなかなか決まらなかった。薩長中心の政府だけに薩摩閥は1599=慶長4年に島津家久と都城主の北郷忠能が沖縄進攻の際に都城の安久(やっさ)武士が歌った『ヤッサ節』にルーツを持つ『おはら節』はどうかという意見を出した。一方の長州閥は「宮さん宮さん」の歌詞で官軍が江戸城に攻め上る<東征>に歌われた『トコトンヤレトン節』を押す動きもあった。

『トコトンヤレトン節』の2番の「宮さん宮さんお馬の前にひらひらするのはなんじゃいな トコトンヤレトンヤレナ あれは朝敵征伐せよとの錦の御旗じゃ知らないか」はまだいいとして『おはら節』は「花は霧島 たばこは国分 燃えてあがるは オハラハー 桜島」から始まるが「かわいがられて 寝た夜もござる 泣いてあかした 夜もござる」や「抱いて寝もせず 暇(いとま)もくれず つなぎ船かや わしが身は」などのなまめかしい歌詞もある。

ペリー提督が連れて来た「軍楽隊」の演奏するマーチにすっかり度肝を抜かれた日本政府としてはてそれ以来、何とかしたいとは思っただろうが歌詞はともかく曲だけでもとはいえ紆余曲折が続いた。まあ、どっちもどっちだが真剣な議論が続いたわけです。薩摩中心の新政府だったら日の丸の掲揚は<オハラハー>でだったかも。

*1962=昭和37年  23歳の堀江謙一が日本人で初めて小型ヨットで太平洋を横断した。

使用した「マーメイド号」は全長5.8m、幅2mで5月12日に西宮ヨットハーバーを出航し93日目にサンフランシスコに入港した。ヨットによる出国が認められていなかった当時だけに<密出国>扱いだったが、迎えたサンフランシスコ市長が「コロンブスもパスポートは持っていなかったのだから」と尊敬の念をもって名誉市民としての受け入れを表明するとマスコミは手のひらを返して「すごい冒険である」と偉業をたたえた。もちろん海上保安部も事情聴取はしたものの起訴猶予とせざるを得なかった。

航海記『太平洋ひとりぼっち』は若者の“必読書”といわれ、オヤジが買ってくれたのでうちの本棚にもありました。そういえば本を読んで「チャンスがあればヨットもいいなあ」と考えていたわが友人たちも翌年封切りされた市川崑監督、石原裕次郎主演の同名の映画(石原プロ)を見に行って無風状態の大阪湾で1日半も迷走し、大荒れの太平洋で悪戦苦闘する様子に「見ているだけで船酔いした。とてもじゃないが無理だわ」という尻込み発言が相次いだのを思い出す。遠くに金門橋を見つけた主人公の狂わんばかりの歓喜の表情が印象的でした。

本だけでなく映画でも大ヒットした堀江氏はいまも海洋冒険家として活躍している。東西両回りの単独無寄港世界一周や全長2.8mという世界最小のヨットでの太平洋横断をはじめ、リサイクルヨット、ソーラーボート、足漕ぎボート、波浪推進船でとさまざまな船で大海にチャレンジしている。「まだまだ冒険は続けます」と“生涯現役宣言”をしているから海なら堀江サン、山なら三浦(雄一郎)サンといったところか。

*1877年  「発明王」トーマス・エジソンが蓄音器を実用化した。

生涯、多くの訴訟を起こし<訴訟王>ともいわれたエジソンが初めて商品化したものだ。「発明したのではなかったの?」という疑問はさておいて銅製の筒にスズ箔を貼り、ずらしながら円筒を回してそこに針で傷を付けることで音声を<録音>それを針でなぞることで震動させて音声を再現する仕組みだった。

初期の蓄音機は50㎝立方と結構大きなものだったが中の構造が見えるように作られていた。思うにこれは<中には誰も入ってはいませんよ>と証明するためだったか。電話、レコードプレーヤー、電気鉄道、白熱電球、発電機、映写機(=キネトスコープ)と矢継ぎ早やに送り出し、自動車王・ヘンリー・フォードとは終生の友人だった。

晩年、エジソンが研究に打ちこんだのは<死者との交信>。成功を見ることなく84歳で没したが「ひょっとして実現していれば」などと思ったりする。

*1970=昭和45年  西條八十没、78歳。

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓井から霧積へゆくみちで、谿底へ落したあの麦わら帽子ですよ。 
                     『西條八十少年詩集』「帽子」

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