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書斎の漂着本  (23) 蚤野久蔵 濃尾地震と根尾谷断層

この写真集『濃尾地震と根尾谷断層』は昭和53年1978)2月に岐阜市の教育出版文化協会から出版された。

村松郁栄監修・市原信治著

村松郁栄監修・市原信治著

日本の陸域を震源とする地震としては観測史上最大とされる濃尾地震は、明治24年(1975)10月28日に起きた。発生時間が各戸で朝食を準備していた時間帯の午前6時37分だったため、半数の家屋が倒壊した県庁所在地の岐阜市では次々に上がった火の手は強風を誘発して市のほぼ大半が焼失した。震央にあたる根尾谷(現・本巣市)には全長数十キロにわたって最大高さ6メートルもある「根尾谷断層」が出現した。表紙写真の奥の土手のように見えるのが断層である。強大な揺れに伴う家屋の倒壊や山崩れで西根尾村では人口の半数近い142人が死亡した。推定マグニチュード8.0、岐阜、愛知両県を中心に全壊家屋は14万戸を超え、死者・行方不明者7,273人、負傷者1万7,175人に上った。

写真集はこの連載の候補本探しで書庫の奥から“発見”したのだが、実のところその存在はすっかり忘れていた。「天災資料は忘れたころに出てくる」とつぶやきながら、なぜこんなのを持っているかと考えたら、表紙写真の根尾谷断層のすぐ上流に作家の宇野千代が愛した根尾の薄墨桜があり、何回か見に行ったことがある。その折に国の天然記念物に指定されている断層の「観察館」を見学した記憶があったから、古書店で手に入れたのだと思い至った。裏表紙の内側に「500」という鉛筆書きがあるからワンコインの資料集めだったが「天災資料はいいけど、天災はやってきて欲しくないなあ」とまたひとりごと。

それにしても明治日本の科学者は「科学を現実に役立てる精神」に富んでいたようで対応が実に早かった。惨状を知るとすぐに「震災予防調査会」という防災科学組織を立ち上げ、東京帝大の若い学士らを嘱託調査員として現地に送り込んで災害の実態調査に当たらせた。錯綜する情報に惑わされるよりは、百聞は一見に如かず、である。東京にはどう伝えられたかだが、現地入りした新聞記者は岐阜市の惨状を「ギフナクナル」と本社に打電した。

『風俗画報』三五号・東陽堂

『風俗画報』三五号・東陽堂

これは翌11月発行の『風俗画報』35号(東陽堂)の錦絵である。こちらは専門の絵描きが担当した。建物の下敷きになって身動きできない人たちに上方から猛火が迫っている。

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焼け野原になった岐阜市内は黒焦げになった立木の幹だけが残る。あたりは一面がれきの山。左端の石柱は「県社・伊奈波神社」とあるが神社も全焼した。神社に通じる目抜き通り・伊奈波通りを行きかう人々は行方不明の親戚を探しているのだろうか。

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山間部に入ると震源に近いこともあって揺れはさらに大きかった。根尾村能郷(のうごう)の能郷小学校は断層のすぐそばにあったため全壊した。始業前だったが授業中なら大変なことになっていただろう。写真に写る人物をよく見ると生徒たちのようだ。村のほとんどの家がこれと同じように倒壊したのだから被害の大きさが分かる。周辺の山という山は地滑りや山崩れにより樹木が根こそぎ崩れ落ちて裸になり、崩れた土砂が谷や道路を埋めた。

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明治政府のお雇い外国人だったイギリス出身の鉱山地質学者のジョン・ミルンは工部大学、スコットランド出身の衛生工学者のウイリアム・バートンは東京帝大に籍を置いていたが、地震調査に派遣された。同行したのがアメリカで写真術を学んで帰国した写真師の小川一真だったから写真は小川が担当したのだろう。彼らはまず長良川下流域で大きな被害を受けた東海道線の長良川鉄橋を調査している。単線の鉄橋は中央部分が落下し線路がグニャリと曲がっている。遥か先に鉄橋を遠望する右の写真の堤防にも大きな割れ目が走る。

彼らのなかでも外国人のふたりは濃尾地震の現地調査で大きな成果をあげた、というか人生までもが変わった。いずれも日本の地震研究の礎を築いたことで知られる。小川が中心となって編集した濃尾地震の調査報告は有名な『日本の大地震・1891』となって残った。ミルンは英国に帰国すると世界の地震研究と観測網の整備に生涯をささげた。バートンはこの1年前に完成した浅草十二階「凌雲閣」の設計者であるが、こちらはあとの関東大震災でポキリと折れてしまうわけで、完成したものはともかく、濃尾地震を調べたことであらためて耐震の重要性に目覚めたともいえる。

東日本大震災から丸3年、日頃のニュースでも地震のニュースが繰り返されるがすっかり慣れっこになってはいまいか。あえて写真などを多く紹介したのもそうした「私自身への警鐘」でもあるとお断りしておく。弱くなった<オヤジ>はともかく「地震・雷・火事」の上位三つは相変わらず不動であると思うから。

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