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“10月30日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

*1938年  アメリカCBSラジオが午後9時すぎから突然<臨時ニュース>を流し始めた。

プリンストンから緊急ニュースです。ただいまニュージャージー州トレントンからの発表によりますと、今日午後8時50分に隕石と思われる巨大な炎に包まれた物体がトレントンから20マイルのグローバーズ・ミル付近の農場に落下しました。

人々はラジオに釘付けになった。するとこんどは現場からの<実況中継>に変った。

放送をお聞きの皆様、動きがありました!
物体の底の部分が開き始めました。

たった今、物体の端が外れようとしています。
てっぺんの部分がまるでネジのように回転し始めました。

大変です。みなさん、大変です。内部から何かが、何かが出てきました。
怪物です。何かを持っています。拳銃のようなものです。光線のようなものが出ています。

あっ、近づいた人に当たり炎があがりました。
悲鳴が聞こえます。炎が、炎が車に燃え広がりました。

これは当時23歳だったオーソン・ウェルズがプロデュースした『宇宙戦争』というラジオ・ドラマだった。宇宙人=火星人が地球に攻めてきたという内容で、現場からの実況中継は実際のニュース番組のように放送された。

レポーターの実況は前年に起きた大型飛行船ヒンデンブルク号の事故を泣きながら実況したアナウンサーそっくりで真に迫っていた。しかも舞台をニューヨークに移したことも<勘違い>を引き起こす原因になった。番組の途中から聴いたリスナーは<火星人が侵略してきた>と本気で信じてしまった。

ラジオ局には聴視者からの問い合わせが殺到した。電話回線がパンク寸前になってようやく局側も<異変>に気づき、何度も「これはドラマです」というスポットを入れて注意を喚起したもののリスナーの多くは家から飛び出し、避難を始めた数百台の車が道路を埋め尽くした。
警察は暴徒の襲撃に備えて番組終了後にラジオ局を緊急警備する一幕もありパニックは翌日の午後まで続いた。幸いにして1人の死者も出なかった。

この放送で一夜にして有名人になったウェルズはやがて俳優、監督、脚本家としても大御所になった。『市民ケーン』などの監督や『第三の男』、『白鯨』『パリは燃えているか』などでの存在感ある演技が特筆される。ひげ面で登場したニッカウヰスキーのテレビコマーシャルも懐かしいですねえ。

*1912=大正元年  フランスの活劇映画『ジゴマ』が治安を乱すとして上映中止に。

作家レオン・サジイの怪盗小説シリーズの映画化で、パリを舞台に変装名人の怪人ジゴマが毎回、殺人や強盗を繰り返すといういささかアブナイ作品で、いま風に言い換えると<ピカレスクロマン>か。東京・浅草の金龍館を皮切りに『探偵奇譚ジゴマ』の題名で前年11月に封切られるとたちまち大評判になり、連日超満員で劇場側は舞台両袖にまで観客を上げて対応した。日本における洋画の最初のヒットになった。

無声映画だから弁士・加藤貞利の『ジゴマ』ニックカーターの巻の前説明はこんな調子。

花のパリーかロンドンか。
月が啼いたかホトトギス。
夜な夜な荒らす怪盗は、題してジゴマの物語。
名探偵ポーリン死すとき、ニックカーターの手をしっかと握り、
御身、吾に代わりて怪盗ジゴマを捕らうべし。
これよりニックカーターの活躍となりますが、
追ってくわしきことは画面とともに説明つかまつります。

ここで弁士が笛を吹くと場内の灯りが消え、楽士席から「天国と地獄」の演奏が響きスクリーンには横文字のタイトルが・・・。

「凶賊ジゴマ」の別名もあったから少年犯罪を誘発するとか、実際にあった「ジゴマ団」による事件、泥棒を真似た「ジゴマごっこ」の流行などで世論の反対が高まってようやく警察が腰を上げた。内務省もこれを後押ししてジゴマ映画や類似映画の上映禁止通達が出された。上映禁止は全国に広まりそれまでは各警察署が行っていた映画などの興行にまで検閲が制度的にも整えられてようやくブームは下火になった。

*1921=大正10年  漏電による朝火事で東京の歌舞伎座が炎上した。

午前8時40分ころ地下の電気室から出火、純和風で総檜造り3階建ての建物は1時間以上燃え続けて焼け落ちた。この火事で3人が焼死、被害は500万円に上ると報じられた。1889=明治22年にできた第1期の外観は洋風だったのを1911=明治44年に大幅に改造し、帝国劇場に対抗して和風の外観にした。焼けたのはこの第2期歌舞伎座だった。再建工事は建物の躯体が完成したところでこんどは関東大震災に見舞われ、工事が中断したうえに敷地が震災道路の拡幅で削られそうになったが東京市長だった後藤新平の鶴の一声で中止になる一幕もあって翌13年12月にようやく完成し東京の新名所になった。

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