新・気まぐれ読書日記

新・気まぐれ読書日記 (30)  石山文也 鯨分限

表紙でご覧に入れるように『鯨分限』(伊東潤、光文社)は、鯨漁復興に命をかけた実在の人物の生きざまを描いた歴史小説である。分限(ぶげん)とは江戸時代の富豪のことで、<鯨一頭七浦をうるおす>といわれた鯨漁で、捕鯨集団「太地鯨...

新・気まぐれ読書日記 (29)  石山文也 颶風の王

行きつけの大型書店で探したが見当たらなかったので尋ねたら「入荷履歴なし」だった。仕方なく取り寄せを頼むと、こんどは「版元品切れで再版待ちです」とのこと。ようやく届いたのがこの『颶風(ぐふう)の王』(河崎秋子、角川書店)で...

新・気まぐれ読書日記  (28)  石山文也 海を照らす光

何年振りだろう、読後に「まいったな!」とつぶやいたのは。『海を照らす光』(M.L.ステッドマン、古屋美登里訳、早川書房)を閉じたときに遥か南半球の孤島に立つ灯台の光を思い浮かべた。 舞台は第一次世界大戦が終わったばかりの...

新・気まぐれ読書日記 (27)  石山文也 悲素

「あれからもう17年になるのか」というのが最初に浮かんだ感想である。帚木蓬生の『悲素』(新潮社)は和歌山市園部地区の夏祭り会場を一瞬にして恐怖のどん底に突き落とし、死者4名、重軽症者63名を出した「和歌山毒カレー事件」を...

新・気まぐれ読書日記 (26)  石山文也 新訳 説教節

題名そのままに、この本を著者による<新訳>である、と書きかけて、それはちょっと違うなと思い直したことをまず告白しておく。『新訳 説教節』(平凡社)は「苦の多い人生を送ってきました」という詩人で作家の伊藤比呂美が、それぞれ...

新・気まぐれ読書日記(25) 石山文也 老骨の悠々閑々

「本屋へ出かけると買うつもりのなかった本をつい買ってしまう、それも魅力のうち」と広告クリエーターで東京・下北沢に本屋を開業した嶋浩一郎さんが書いていた。私の場合<ささやかな小遣いと相談>ではあるが、つい、どころか、ついつ...

新・気まぐれ読書日記(24) 石山文也 異邦人

原田マハの『異邦人』(PHP研究所)のタイトルには「いりびと」とルビがふってある。 「なんでわざわざそうしたのだろう」と思いながら目次に続く<中とびら>を開くと、「京の人は、猶(なお)、いとこそ、みやびやかに、今めかしけ...

新・気まぐれ読書日記 (23) 石山文也 若冲

「何かの文学賞を取るかどうかでその作品の評価が決まるわけではないじゃないか!」とのお叱りを承知で、今回は<惜しくも直木賞を逃した>と書き始めることにしたい。江戸中期の京都を中心に活躍した奇才の画家・伊藤若冲(じゃくちゅう...