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“10月6日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

*1931=昭和6年  日本からアメリカへの初の太平洋無着陸横断飛行が成功した。

リンドバーグの大西洋単独横断飛行=1927年に刺激されて世界一周飛行や太平洋無着陸横断飛行に注目が集まり成功者には多額の懸賞金が出されるなどの一大ブームが背景にある。「世界一周早回り」に挑んだ35歳のクライド・パンクボーンと26歳のヒュー・ハーンドンは425馬力エンジンの単発機「ミス・ビートル号」でニューヨークを出発し、ロンドン経由でモスクワまで飛んだが悪天候により予定をオーバーしてレースは断念した。帰国途中のハバロフスクで朝日新聞社が初の太平洋無着陸横断飛行に懸賞金を出しているという情報を入手すると真っ赤に塗った派手な機体で東京の立川飛行場に飛来した。

帰りはアリューシャン列島沿いに飛行する予定だったので<一石二鳥>のつもりだったがスパイの疑いをかけられてしまう。ちょうど来日中のリンドバーグの取りなしもあってようやく嫌疑が晴れた。その後は在日アメリカ人などの協力で監視の目を盗んで無着陸飛行に備え燃料タンクを増設、空気抵抗を減らすために離陸後に車輪を落せるように改造して胴体着陸のための機体補強などを短期間にやり終えた。

出発地点に選んだのは青森県三沢村=現・三沢市の淋代(さびしろ)海岸。当時、東日本にはまともな飛行場はまだなく立川からでは距離がありすぎて不利だった。つまり地球儀上を短距離で結ぶ「大圏コース」を飛ぶには青森県の太平洋側がアメリカに最も近かった。しかも海岸が粘土と砂鉄混じりの堅い地層で離陸には最適とわかった。このニュースが地元に伝わると村中が沸いた。村長以下青年団が献身的に協力し杉板を敷いて滑走路を作り、万一のことがあってはと機体の不寝番を交代でつとめた。天候などを見定めて出発したのは10月4日午前7時1分。差し入れのサンドイッチ、鶏の唐揚げと紅玉リンゴ20個を積んで村人総出で見送るなか重い機体がようやく離陸すると見えなくなるまで手を振った。そしてアメリカ・ワシントン州ウェナッチ市郊外まで約7,900キロを41時間13分かけてたどり着いたのが日本時間のこの日未明。現地時間の5日午前7時すぎだ。

お忘れかもしれないが改造した「ミス・ビートル号」には車輪がなかった。
「機体スピードを失速寸前まで下げ、滑走路の端に入るとエンジンスイッチを切って、プロペラを水平位置で止めようとしたが不幸にも垂直位置で止まってしまった。仕方なくフラップを操作して機首を上げ、胴体を滑らせて最後は左翼が地面にこすれてようやく停止した」
空港にかけつけた観衆は祈るような気持ちでその一部始終を見届けた。機体が完全に停止した途端、わき上がる砂塵をものともせずに彼らはいっせいに機を取り囲んだ。2人が英雄になった瞬間だった。

太平洋のかなたから飛んできた小さな飛行機で運ばれてきたのはとてつもない偉業を成し遂げたという<栄光>と食べ残しのリンゴ5つだった。

*1945=昭和20年  作家・高見順は特高警察と治安維持法の廃止指令をこの日の日記に書いた。

「胸がすーっとした。暗雲が晴れた思い。しかし、これをどうしてみずからの手でやれなかったのか――恥ずかしい」

特高警察が関与したとされる事件は「京都学連事件」「3・15事件」「4・16事件」「赤色ギャング事件」「熱海事件」「死のう団事件」「大本事件」「ゾルゲ事件」「横浜事件」・・・拷問死させられたのも岩田義道、小林多喜二、野呂栄太郎などがいるがそれらはすべてGHQ=連合国最高司令官総司令部によって<不問>となった。「みずからの手でやれなかった」と書いたのはそのためだ。

逆にGHQの占領政策の転換により公職追放になった官僚たちのなかには処分解除により省庁の幹部に復職したケースも多かった。これらの返り咲き組を「逆コース」と呼んだ。立場を変えてGHQの方針にすり寄って「レッドパージ」の先鋒を担うとか国会議員に転身したケースも多い。「レッドパージ」の摘発にやってくる取締官は<赤色表紙の手帳>を持っているというブラックジョークもあったがこれはヒロポンなどを取り締まる「麻薬取締官」のほうだった。

*1969=昭和44年  千葉県松戸市に「すぐやる課」が誕生した。

<無給勤務>で話題になった9代目市長の松本清のアイデアだった。初代の責任者に任命された職員は「最初は冗談かと思いました。部屋は運転手控室だというので行くと新聞社の人がわっといて」と。初仕事は急病になった子の父親探しだった。これが話題になって全国に波及、海外でもデンマークの町に同じ名前のセクションが誕生した。もちろんデンマーク語だけど。

市長2期目に倒れたがドラッグストアチェーン「マツモトキヨシ」の創業者で、いまの「すぐやる課」に持ち込まれるのはハチの駆除や車にひかれた小動物処理が多いそうだ。

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