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“6月17日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

*1940年  パリ陥落の2日後、ド・ゴールがBBCのラジオ放送でフランス国民に呼びかけた。

「私、ド・ゴール将軍、今ロンドンにいる」これを聞いた多くの国民は耳を疑っただろう。BBCはイギリスの放送局だし、ド・ゴール将軍がなぜロンドンにいるのかと。ドイツ軍の制圧を免れていた南仏ではかなりの人々が聞いたとされる。それがかろうじて小部数を発行していた地方新聞の記事になり「フランス国民よ、抵抗の炎は消えない!」という力強いド・ゴールのラジオ放送の存在がじわじわと国民の間に広がって行った。

ド・ゴールは1890年にフランス北部の工業都市リールに生まれた。下級貴族の家柄だけに名前はシャルル・アンドレ・ジョセフ・ピエール=マリ・ド・ゴールと長ったらしいから以後はド・ゴールだけにするが曾祖父はルイ16世の法律顧問だったのでフランス革命では投獄された。祖父は有名な歴史学者、父親はイエズス会学院の校長で医学・理学・文学の博士号を持ち歴史が専門という「歴史好きの家系」だったから歴史知識を身につけてキリスト教の伝道士をめざした。ところがド・ゴール少年、長身痩躯の立派な体格を生かせる陸軍士官学校への道を選ぶ。入学当初から頭ひとつ背が高かったから付けられたあだ名はフランスのシンボルのひとつでもある「シラノ=雄鶏」、「アスパラガス」や「コネターブル=大将軍」とも呼ばれた。卒業するころにはさらに身長も伸びて2メートルもあった。卒業後はのちに首相となるフィリップ・ペタンの歩兵連隊に配属される。第一次世界大戦ではドイツ軍と戦い、砲撃で重傷を負い気絶したのを<戦死>と判断されて死体運搬車で運ばれるところを揺れで目をさました。隊の指揮も抜群で白兵戦では多くの戦功をあげた。捕虜にもなり、5回も脱獄を図ったが大柄だったので真っ先に見つかりいずれも失敗した。

冒頭のBBC放送。フランス軍最年少の将軍とはいえ<亡命者>のド・ゴールを登場させることについてはイギリス議会や閣僚のほとんどが「事を荒立てる」として反対した。それを押し切って放送を強行したのはチャーチル首相だった。しかもロンドンに亡命政府の「自由フランス」を置くことを許した。放送では徹底した対独抗戦の継続と親独的なヴィシー政権への抵抗を呼びかけることで、のちに「フランスの反撃へのろしを上げた」と高い評価を受けることになる。
「希望は消えなければならないのか。われわれは負けてしまうのか。ノン=否だ!フランスはひとりぼっちじゃない」
「どんなことがあってもレジスタンス=抵抗の炎は消えない。この戦争は不幸なわが国土だけには限られていない」

暗闇の向こうからかすかな電波に乗って届くド・ゴールの言葉にフランス国民は鼓舞された。

*1933=昭和8年  大阪で陸軍と警察が反目する「ゴーストップ事件」が起こった。

午前11時ごろ、天神橋6丁目の交差点で赤信号を無視して横断しようとした陸軍一等兵を曽根崎署の交通巡査が「オイ、コラ」と呼び止めて交番に連行したところで乱闘になった。「先に手を出したのはそっち」と互いに譲らず訴訟に持ち込まれ、警察と軍部、内務省と陸軍省、官僚と軍閥の争いにエスカレートしていった。

軍が「陛下の股肱(ここう=最も頼りとする家臣)であるわが軍人を侮辱し、あまつさえ負傷させた、どうしてくれる」といえば警察は「臣民を陛下に代わって守っていけるのはこちら。そもそも信号を無視したそちらが陳謝せよ」と泥沼になった。
ようやく5カ月後に宮内省の働きかけもあって警察署長が連隊長に陳謝することでケリ。但し細かな理由は明らかにされなかったから軍部はこの事件をきっかけにいよいよ権威を振りかざし日本は<暗くて嫌な時代>に入って行く。

*1907=明治40年  森鴎外ら文壇大御所の面々20人が西園寺公望首相の私邸に招かれた。

桂内閣のあとを継いだ西園寺は一時、文部大臣も兼任していた。東京・駿河台の私邸への招待状には
「唐突ながら我国小説に関する御高説を拝聴致したし」とあったから夏目漱石以外の19人は出席を承諾した。
西園寺は10年以上にわたってフランスのソルボンヌ大学へ官費留学したこともあるフランス通だった。パリではのちに首相に就任するクレマンソーや留学生仲間で自由民権運動の理論的指導者となる中江兆民、伊藤内閣で文部大臣になる松田正久らと交友を深めた。

「料理やワインをお楽しみいただきながらのひとときを」と添えられていたから作家諸氏も西園寺からフランス文学の話なども聞けると期待したかもしれない。
しかし漱石は「やむを得ぬ所用あり」と断る手紙の最後に一首を付け加えた。

  ほととぎす厠なかばに出かねたり

権威嫌いの漱石らしいが雪隠に<隠れる>というシャレ。

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