1. HOME
  2. ブログ
  3. 季語道楽⒀ 新年   坂崎重盛

季語道楽⒀ 新年   坂崎重盛

早いもので、このWEBでの連載「季語道楽」、スタートしてから、ちょうど一年たちました。四季をひと巡りしたわけです。

と、いうわけで今回は、二年目の「新年」。

正月間近の風景。羽子板と羽根を手にする母子。うしろの人影は正月飾りを肩にする男衆だろう。明治木版画。

正月間近の風景。羽子板と羽根を手にする母子。うしろの人影は正月飾りを肩にする男衆だろう。明治木版画。

この年明け、世界は、いや、私自身、前途多難を覚悟しなければならない状況ではあるはずなのに、元日からの、おだやかな日和の中で、昼から浅草花街散歩やら神保町、昼下がりの雑本漁りとビール三昧などと、能天気な松の内。気がつけば七草七日も過ぎて、八日の夕方前、スタバでモダン・ウェスタン(?)などBGMに、この原稿を書いています。

気分は、まったく、まだ正月。その証拠に、というかなんというか、夕方過ぎから、神楽坂で文豪・A氏と新年会です。

皆さまの今年のお正月はいかがお過ごしでしょうか。初句会は、もうやってしまわれたでしょうか。

もちろん「初句会」は「新年」の季語。「初」とついたら新年にきまってる。

「初暦」「初日記」「初硯」「初湯」「初市」「初荷」──なんか字面だけ見ていても目出度い気分になりますね。

かるた取りに興ずる女性たち。放っておかれた猫は手まりと戯れる。

かるた取りに興ずる女性たち。放っておかれた猫は手まりと戯れる。

「初荷」かぁ。最近は、さっぱり見かけなくなりましたが、問屋さんが小さなトラックに青果やお酒のケースを積み上げて、のぼりを何本も立てて小売店をまわったあの情景、「イヨーッ!」とか掛け声をかけて手拍子打ったりしていたのを思い出しました。

「初鏡」「梳初(すきぞめ)」「初櫛」「結ひ初(ゆいぞめ)」「縫初(ぬいぞめ)」「俎始(まないたはじめ)」──これは女性用の季語でしょうか。まっ、男性でもかまわないのですが。女性用の季語といえば、「女正月(おんなしょうがつ)」。「女正月(めしょうがつ)」という季語があります。これは正月十五日のこと。

関西の京都・大阪では、女性は松の内はなにかと忙しく、十五日から年始の御礼まいりを始めるため、「女正月」ということになったという。

似た季語で「女礼者(おんなれいじゃ)」があるが、こちらは正月早々、正月三日から、回礼にゆく女性をさす。

「骨正月(ほねしょうがつ)」という、いかにも俳味に富んだ珍しい季語がある。正月二十日のことで、地方によって、「団子正月」「二十日団子」などともいう。

正月用の魚もほぼ食べつくし、その骨で出汁をとって正月最後の食事をするという風習。

お屠蘇で酔ったうえでの羽根つきか。赤ら顔の男の顔には、もう墨が。

お屠蘇で酔ったうえでの羽根つきか。赤ら顔の男の顔には、もう墨が。

この日が過ぎれば、客に対しても正月向きの応接をしなくてもいいという。東京育ちの私など、聞いたことがない言葉です。季語には、その地方の人にしか実感のわかない言葉がある。逆に言えば、その季語ひとつで、その地域の風習や行事の情景や気分を喚起することができることになる。

さて、「初」がつけば、まず、「新年」とはすでにふれたが、「寒」、これもまた「新年」の季語となる。

「寒造(かんづくり)」「寒稽古」「寒復習(かんさらい)」「寒見舞」「寒施行」──なにか身の引き締るりんとした雰囲気がある。

それでは例によって読みにくい季語、珍しい季語をいくつか。もちろん「新年」です。

「淑気(しゅくき)」「瑞雲(ずいうん)」、これは正月のめでたくも荘厳な気配という。

「注連飾(しめかざり)」、これを「七五三縄」と表記することもある。しめかざりのワラを七、五、三という順に垂らすため珍しい。名字で「七五三」と書いて「しめ」あるいは「しめなわ」と読ませる例もある。

わたしが愛する瓢箪についての奇書を大正時代に著した七五三翠嚴という人もいましたっけ。

「屠蘇(とそ)」「草石蚕(ちょろぎ)」「木偶回し(でくまわし)」「鷽替(うそかえ)」「土竜打(もぐらうち)」「𣜿(ゆずりは)」「野老(ところ)」。

この中で、子供に印象深いのが「ちょろぎ」と「うそかえ」。「ちょろぎ」は例のおせちの黒豆の中に入っている、妙な形をした小さな赤い巻貝のような不思議な物体。食べはしないがこれが多年草の根っ子だという。

明治期の地方(岡山)の正月風景。子供の情景が可愛いい。

明治期の地方(岡山)の正月風景。子供の情景が可愛いい。

もうひとつ「うそかえ」。家から自転車で20分ほどのところに亀戸天神(天満宮)があり、鷽(うそ)という可愛い鳥の形をした木彫りを買って帰る。一月末の行事ですが、本家の太宰府天満宮では一月七日に催されるため「新年」の季語となっている。

この「うそかえ」にせよ、藤の季節にせよ、亀戸天神へ行けば必ず寄るのが天神さまの鳥居の手前の葛餅の「船橋屋」でした。ここの葛餅、好きだったなぁ。

関連記事