池内紀の旅みやげ

池内紀の旅みやげ(26)老舗の底力ー群馬県桐生

群馬県桐生市は、かつて絹織物で栄えた。天満宮前の六斎市に絹市が立ったのが始まりというが、ひところは京の西陣と商いを競っていた。現在は紋織りのお召や帯が中心だという。銘仙や輸出用のマフラーも作っている。 両毛線桐生駅を出て...

池内 紀の旅みやげ(25) 渓谷の宇宙人ー群馬県川原湯

JR吾妻線は渋川で上越線と分かれ西へ転じて、終着の大前駅へと向かう。のんびりした、いい路線である。かたわらにいつも吾妻川が見える。利根川の支流のうち最大の川で、水量がある。そのうちしだいに左右の山が迫ってきて、岩場のちら...

池内 紀の旅みやげ(24) 石の文化ー兵庫県福崎町

日本は木の文化、西洋は石の文化とよくいわれる。おおよそのところはそのとおりだろうが、わが国にも古くから石の技術があり、石でもってさまざまなものを作ってきた。とりわけ知られているのが城の石垣で「近江の穴太衆(あのうしゅう)...

池内 紀の旅みやげ(23)ユースの青春─鹿児島県指宿

鹿児島の指宿(いぶすき)温泉は海辺に湯が湧いていて、旅館が並び立っている。JR指宿駅から商店街を抜けて海岸へ向かっていたら、奇妙な建物が見えてきた。海近くにあるが旅館街からは離れていて、畑を背にしている。立派なコンクリー...

池内 紀の旅みやげ(22) カフェ工場跡──奈良県奈良市中

奈良・東大寺の戒壇院は、平安時代の名作四天王像で知られている。大仏殿の西方、民家と接するところにあって、小づくりのお堂が石段の上でひっそりと孤影を投げかけている。 たいていの人は来た道を引っ返すが、お堂の左にまわって裏手...

池内 紀の旅みやげ(21)八ヶ岳・三分一湧水─山梨県・長坂 

青々とした水田をながめていて、ふと思うことがある。これだけの稲田をうるおす水はどこから来るのだろう? 近くには川もなければ池もない。遠くから取水するとなると大工事があっただろうに、そういったけはいもない。山があるから谷の...

池内 紀の旅みやげ⒇ 松岡兄弟絵馬─兵庫県福崎町

大きな神社には絵馬堂があって、ところ狭しと絵馬が掲げられている。拝殿が兼務しているところもあって、かたちばかり拝んだあと、丹念にながめていく。江戸の末年、明治二十年代の年号入りが多いのは、当時、絵馬奉納が流行していたのだ...

池内 紀の旅みやげ⒆ 土蔵群と自治労─鳥取県若桜町

鳥取と岡山県の津山間を走るJR因美線(いんびせん)に郡家(こおげ)という駅があって、そこから若桜(わかさ)鉄道が出ている。昭和五年(一九三〇)、国鉄若桜線として開通、昭和六十二年(一九八七)、廃止。以降は民営。 郡家から...