池内紀の旅みやげ

池内 紀の旅みやげ(42)涅槃経ミクロコスモス─旧品川宿

用があって都心に出てきて、思いのほか早く用件をすませたときなど、どこかに足をのばしたくなるものだ。中央線沿線に住んでいるので、西の方にはなじみがあるが、東の総武線や、北の王子、浦和方面はまるで知らない。「つくばエクスプレ...

池内 紀の旅みやげ(41) 血の素─三重県関

名古屋で関西本線に乗り換えた。桑名、四日市、亀山。次の関(せき)で下車。坂道をのぼっていくと十字路に出る。とたんに二十一世紀が十九世紀に逆転したような町並みに入っていた。 「関の地蔵さま」で知られた旧宿場町で、東海道五十...

池内 紀の旅みやげ(40) 皿改め─兵庫県姫路市

「皿屋敷(さらやしき)」伝説は全国にある。主人秘蔵の皿を奉公の女が割ったために殺され、のちに幽霊となって主人を悩ませるというのだ。なかでも播州姫路と江戸番町のケースが有名で、江戸時代に人形浄瑠璃「播州皿屋舗」がつくられ、...

池内 紀の旅みやげ(39)旧連隊門衛─愛知県豊橋市

サテ、何だろう? 門衛とか守衛とかいわれる番人のいるところ。それはすぐにわかる。皇居とか警視庁とかには、正門にあたる所にこの手のものがあり、制服姿がものものしく番をしている。 ただし、コンクリートづくりのこの形は、ある時...

池内 紀の旅みやげ(38)越後上布と雪さらし─新潟県塩沢町

越後上布(じょうふ)は新潟県南部の魚沼地方の特産である。原材料は麻の茎。皮を剥いで雪にさらし、漂白したのを裂いて糸にする。特有のちぢれをもつところから「越後縮(ちぢみ)」の名で親しまれてきた。江戸時代の雪の記録として知ら...

池内 紀の旅みやげ(37) 黒い鉄人─静岡市丸子

東海道五十三次の一つ、丸子(まりこ)の宿は鞠子とも書いた。現在は静岡市の郊外にあたり、市中からバスで十五分ばかり。切れ目なく車が通る国道1号の裏通りといったふうに、旧東海道がひっそりと残っている。 宿場町には飯盛り女がつ...

池内 紀の旅みやげ (36) 祭礼指南─浅草・鷲神社一の酉

以前、わが文源庫の月刊誌「遊歩人」に『祭りの季節』を連載した。たしか三年間つづけたと思う。それまで十数年にわたって訪れた全国の祭礼から、三十いくつかを選んで綴ったもので、のちに写真を加えて本になった。(みすず書房・二〇一...

池内 紀の旅みやげ (35) アメ玉再会──新潟県糸魚川市

アメであるが、そこに「玉」をつけてアメ玉といった。玉の形をしていたからで、ピンポン玉ほどもあった。子供の口には大きすぎて、頬ばると口が風船のようにふくらんだ。そのままアグアグしていると、甘い唾液がたまってくる。それを呑み...