池内紀の旅みやげ

池内 紀の旅みやげ (10) 巨大フグ(山口県・下関市)

カラっ風が吹きはじめダイダイが黄ばんでくると、フグの季節 ── 昔の人はそんなふうに言った。刺身にせよチリにせよ、フグにダイダイはつきものである。透きとおるような白身に黄色のダイダイ、色どりもピッタリだ。仲間と肩を寄せ合...

池内 紀の旅みやげ(9)横浜・ホテル・オリエンタル

歴史の本には「グランド・ツアー時代」などと書かれている。一九世紀の後半にヨーロッパで流行した旅行熱である。とりわけ東方(オリエント)に人気が集まった。はじめはエジプトやトルコなど、ヨーロッパに近い中近東だった。それがしだ...

池内紀の旅みやげ (8)控訴院の飾り (北海道・札幌)

ヨーロッパの町歩きが楽しいのは建物に味があるからだ。鉄とガラスの現代建築も悪くないが、その前の古風な石造りがおもしろい。そこでは壁の彫刻はただの飾りではなく、一つ一つがしかるべき意味を持っている。美術史では聖画を絵解きす...

池内 紀の旅みやげ (7) 謎の洋館(埼玉県深谷)

埼玉県深谷市の市中にステキな洋館がある。大正末年から昭和初頭に建てられたのではあるまいか。当時、世界的に流行していた「アール・デコ」様式で統一されていて、緑がかった屋根瓦、壁は深い黄色、二階に屋根裏部屋のつくスタイル。窓...

池内 紀の旅みやげ (6)巷の温泉──京都・中書島

旅先で銭湯に出くわすと寄っていく.街歩きの強力な助っ人であって、コーヒー一杯分の値段で全身の疲れがとれる。 ひところとくらべると、うんと少なくなったのだろう。人、人、人がひしめき合った東京ですら、入りの悪さにノレンをしま...

池内 紀の旅みやげ (5)元黒磯銀行──栃木県黒磯

東北本線黒磯駅は途中下車したい駅である。東北新幹線の那須塩原駅が一つ東京寄りにできてお株を奪われたが、もともとこちらが那須高原や塩原温泉の玄関口だった。駅前のたたずまいからして、ゆったりして落ち着きがあり、町並みに風格が...

池内 紀の旅みやげ (4) 千町の棚田ー愛媛県西条市

愛媛県西条市のキャッッチフレーズは「水の都」。南に広大な石鎚山系が控えていて、そこから大量の水が送られてくる。川になって流れているのではない。伏流水として地下を走っている。当地では「うちぬき(打ち抜き)」と呼ばれているが...

池内 紀の旅みやげ (3)  三等郵便局

旅の途中、注意しているものの一つに郵便局がある。都市化したところはつまらないが、小さな町や村では味のある建物と出くわせる。たいていは木造で、現在も使われており、戸口に「金利上乗せ実施中!」といった旗が立ててあったりする。...