犠牲者

川又千秋

 「もしもし。オレだよ、オレ」
「孫の伸介かい?」
「ん? あ、そうそう! 実は、おばあちゃん、大変なことに…」
「交通事故でも起こしたのかい」
「そ、そうなんだ。三百万円払わないと勤め先に乗り込むって脅されてる。お
願い! すぐ銀行に振り込んで」
「目が不自由で外出できないことは知ってるだろ。お金なら、いくらでもある
から、取りにおいで」
「でも、オレ、監禁されてて動けないんだ。そこの住所も、うろ覚えだし」
「だったら使いを寄こせばいい。ここの番地を教えるから」
「分かった! お金、ちゃんと用意しといて」
「いいとも、待ってるよ」
ニタリ。人骨が転がる薄暗い室内で黄ばんだ牙を剥き、鬼婆は包丁を研ぎはじ
めた。

関連記事