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季語道楽(25)変わり種歳時記 坂崎重盛

  • 2019年10月9日 16:42

変わり種、歳時記︱海外編その他(その②)
渾身の刊行『ハワイ歳時記』の意義

 京都在住の知人、阿部氏より『ハワイ歳時記』を贈っていただいたとき、(ハワイで歳時記ですか⁉︎ “常夏(とこなつ)の島ハワイ”に四季などあるのかしら? 歳時記が必要なのかしら?)と、この本が、日系ハワイの人同士の、ちょっとした洒落というか、ハワイに住む日本人の交流のための刊行物かと思ったのだが、本を手にし、本文を読みだして、自分の軽々しい認識を改めることとなった。
 前回、少しだけ触れた、巻頭の「ゆく春発行所」の平川巴竹氏による『ハワイの俳句』をみてゆきたい。ここには、一般に通用してきた歳時記が抱えてきた問題点が示され、明らかにされている。引用する。
   先日『文芸春秋』(ママ)七〇年二月号「俳句」の欄を読んで
  いたら『ローカル歳時記を集めて地方別大歳時記を作れば面白
  いし、またそれはそれなりに意義のある仕事と思い』とあり、
  続いて『従来の歳時記は京阪や東京を中心に編まれており、薄
  弱であった点は否めない』
という意見を紹介している。確かにそうなのだ。僕なども東京生まれ、東京育ちの人間なので、これまで、歳時記を開いていて、特別、何の違和感ももたずに来た。しかし、あるとき、(この季語は、たとえば東北での句会では通用するのだろうか、その時節と合致するのだろうか?)と思ったことがある。
 たとえば、東京での吟行で桜散る光景を句に読んだとしても、同じころ東北では、“散る”どころか、まだ開花にも至っていないだろう。しかし、歳時記では一様に“桜散る”とあるから、東北での句会では、季題として提出され、この季題をもとに、いろいろ句作をしなければならなくなる。
 と、すると現実の散る桜からの発想はありえなく、その体験は、もっとも近くでも昨年、さらには過去の記憶やイメージからの句作りとならざるを得ない。
 もう少し、「ハワイの俳句」の本文に当たってみよう。
   また昨秋芸術院会員に推された山本健吉先生は「俳句の歳時
  記が、だいたいに於いて京阪と東京を結ぶ緯度を中心として編
  纂されているため、たとえば北陸、東北の俳人が自分の住んで
  いる地方の季節現象によるよりも中央の季感によって句を作っ
  ている例は非常に多い。」
 と、山本健吉編『新俳句歳時記』新年の部の文章から引用、紹介している。従来の歳時記がずっと抱えてきた問題点とは、この、季題・季語の地方差による気候差、また、生活行動、習慣の差異である。従来の歳時記は、いわば、季語の季題における「中華思想」によるもの。もちろん、ここでの「中華」とは「京阪と東京」中心である。
 仮に小学生が梅の花という季題で俳句を作ることとなったら、北海道の子は、従来の歳時記の季語に対し、「ここ北海道では吹雪の真っ最中で梅なんかさいていないもん!」というだろう。こんなわかりきったことが従来の歳時記では無視されてきた。その地方差、どころか、国の差が『ハワイ歳時記』では否応なく現われる。
   先にノーベル文学賞を受賞せられた川端康成先生はハワイ大
  学での講演の中に、ハワイ特有の季語としての「夜の虹」や「冬
  緑」についてお話があったと聞くが、実際にハワイの冬を訪れ
  た人でないと「冬緑」という様な季語についての鑑賞は難しい
  だろうし、またあのハワイに於ける七彩の美しい虹に直接接し
  たことのない人は「夜の虹」というハワイ特有の季節の持つひ
  びきは味読できないかも知れない。
と、ハワイならではの季語の例を挙げている。
(この辺りに冬緑のぺーじのphotowを入れる)
 そうか、ハワイには「冬緑」や「夜の虹」という、季節による現象が身近にあったわけだ。それが句に詠まれて、季語、季題、として定着してゆく。
 見たいじゃないですか! 夜の虹、なんて。そんな光景を目にしたら、俳句を作る人間だったら、まず、それを句にしてみたいと思うでしょう。
 この『ハワイ歳時記』の巻頭の文や、この歳時記の刊行に寄せられた献辞を読むと、版元の句誌「ゆく春」発行の平川巴竹氏本業は弁護士、編者の本山玉萩氏(三代松)は広島県の出身、ハワイで俳人にしてビジネス界での成功者、また本願寺の信徒と知れる。
(この辺りにハワイの海を望むphoto入る)
『ハワイ歳時記』は、これらハワイ在住の俳句仲間によって貴重な出版物となった。総ページ432、ハワイの動植物や地形といった自然や風習のカラー写真が24ページにわたって掲載、豪華にして本格的な本づくりである。この歳時記紹介の最後に巻頭文の平川巴竹氏の選句による「ハワイ情緒を味解し易いと思った句など」」の中から、引用、紹介したい。
   冬緑ラバに添いつつ海に入る     靜雅
   カハラオプナの恋の色とも夜の虹   玉萩
   丘枯るる果てに続けり海の青                
   降り降りて我を埋めよ花マンゴ   小春女
   コーヒーの花を呼びたる朝の雨    月嶽
   ウクレレに和してライチー熟れにけり 春芳
 本文、夏をめくってゆくと、全く未知の動植物の名前や催事の言葉がたびたび出てくる。観光で、この地を訪れたことはある。まったくの異国なのだが、その世界が五・七・五の俳句で表現される。
(この辺りにハワイの民族衣装と白い花のphotoを入れる)
 この歳時記は現地に住む人にとってはもちろんのこと、いわゆる部外者にとっても一句一句が事物、事象がもの珍しく、また、同じ日本人ならではの感性が共有できるのである。ハワイに暮らしたことがないのに、ノスタルジー、郷愁を感じてしまう。
 そして、また、この歳時記一冊を読み込み、親しめば、現地の人もびっくりのハワイ通、いや、一級のハワイ研究家になれてしまうこと、請け負える。やはり歳時記はスゴイ!

 さて、もう一冊の変わり種、歳時記。こちらは沖縄。『沖縄歳時記』(小熊一人著・昭和五十四年十月 琉球新報車刊)。この、沖縄に特化した歳時記は、たしか、もう二十年近く前か、かつての仕事場の後輩A君のオゴリで沖縄に遊んだ時、現地の物産店かなにかの書籍コーナーで出会ったはずだ。
 そのとき思ったのは、やはり、(えっ、沖縄で歳時記?)というものだった。『ハワイ歳時記を』を知る、かなりまえのことである。
 次回はカラー口絵に「竹富島風景」と「奥武島遠望」と題する写真が掲げられている、この亜熱帯海洋性気候の島・沖縄に、どのような四季、そして季語、季題がありうるのか見てゆきたい。

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