Web遊歩人

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私の手塚治虫(19) 峯島正行

  • 2014年4月13日 11:11

無性人間の大団円

 

総理大臣の許可が下りる

 

木座神は総理大臣に会う決意をする。「あの戦争ショーを成功させるところは日本しかない。俺の執念だ」と総理大臣に会いに行く。戦争ショーについて、それこそ熱烈に説明し、援助を乞うと、

「戦争ショーなどやると、わしの支持率がまた下がる」

佐藤栄作を思わせる顔の大臣は、あまり乗り気にはならない。すると木座神は執拗に食い下がる。

「戦争映画やテレビが、ヒットしていることを思い出してください。人間だれしも闘うことが好きなのです。だが戦争には必ず損得がつきものです。その上危険です」

 ここで一呼吸置く。

「しかし損得に関係なく危険でもない戦争があったら、誰でも見てみたいと思うでしょう」

「分ったよ,一体どこでやろうというのだ」

「近く返還される小笠原諸島!あそこのPRも兼ねて。一発、ぱあっと、全世界をアッといわせるこの手は如何?」

「ええっ」

この分だと脈はありそうだぞ、と木座神はにんまりして、大臣邸を辞したのであった。 

小笠原諸島は戦争中、米軍に占領されていたのだが、沖縄が返還されたように、日本の手

に戻ってきたばかりだ。日本としては、新たにその開発を進めねばならない時だった。父島、母島を中心に多くに観光資源に恵まれている島嶼群であった。そこを舞台にしようというのが、木座神の狙いだった。

それから各方面に運動して、戦争ごっこの準備を進めた。

 

彼の活動を探っていた未来も、自分の組織力を総動員して、情報を集め、ひそかに、妨害活動の準備を行う。

 

かつて太平天国を逃げ出した、九九九五四五二も、その配下となって、ちょろちょろやりだした。彼は思慮が足りず、失敗も幾つも重ねては、未来を困らせた。例えば、

或る朝ひとつの事件が報道された。「本日午前二時ごろ、新宿区四谷三丁目のマンションで、八人のモデルを惨殺するという事件が起きた。犯人は芸大在学中の画家で、周旋屋から女性型無性人間の九人のモデルを雇い入れて、自宅で仕事中、雇い主本人が突然、錯乱状態になり、いきなり銃を持ち出し、乱射した。九人のうち八人が即死、残る一人が行方不明であります」

それが放送されている最中、一人の女形無性人間が哀れな姿で、未来たちの反抗同盟の事務所に現れた。九九九五四五二はきいた。

「たった一人逃げたというのが君なのか、さあ水でも飲んで落ち着くんだ。どういうルートで、モデルに売られたのだ。」

「太平天国からアラブに売られ、紛争が終わったので、用が無くなって…、がらくたと一緒に闇商人に買われ、日本に流れて来て、モデルなったの」

「君だけが犠牲者じゃない。無性人間を殺して、何も思わないやつに思い知らせてやるんだ。君はいいところに逃げ込んできた。君も同志になれ、ここで同志が集まって、無性人間解放の運動をしているんだ」と女形の無性人間を口説いているとき、二、三の同志が飛び込んできた。

「99!一大事です、木座神がついに総理大臣を口説き落として小笠原を手に入れました」

「ほんとか」

「たしかな情報です、小笠原で、無性人間のショウをしていいという許可が下りたのです」

「その許可証と、そのほかの重要文書を持って今夜一〇時に、飛行機で羽田を立つはずです」

九九九五四五二はしばらく考えこんでいたが、「みんなを招集しろ」といった。

仲間が集まると、「今夜高速一号線鈴ヶ森で木座神の車を待ち伏せして、木座神をとらえ、監禁しよう」と申し渡した。九九九五四五二はすっかり指導者気取りでいうのだった。

「皆は、三々五々アベックのふりして集まり、木座神の車を襲うことにする」一同に言い渡して、出てゆこうとする彼を抑えたのは、この屋の主で、実質統領の未来だった。

「待ちなさい」と未来はいった。「もっと慎重に考え、行動した方がいい。聞いていると、あまり話がうますぎる」

「この機会を逃すと、二度と戦争ショウを抑えるチャンスがない」と九九九五四五二は強引に出て行った。

 

 

未来が部屋へ戻ると今朝某所で、モデルが8人殺され、一人だけが逃げたというニュースがあった。今日逃げ込んだ、其処に残っている一人の娘は逃げおうせた娘かも知れないと未来は思った。が、たちまち底が割れた。ラジオのニュースが、逃げたと思われた娘は、すぐ近くの塵処理場で、惨殺されていたことが分った。となると、未来の目はきらりと光った。

「あんたスパイだね、木座神に今のことを電話で報告しただろう」

万事休す。未来は天を仰いで嘆息した。

今頃は木座神の手下に、九九九五四五二はじめ、同志は一網打尽になっているだろう。

万事未来の予想通り、一番に突進した九九九五四五二の体は、蜂の巣のように、銃弾を浴びた。一人の女方は、顔を目茶目茶にやられた。他の無性人間は警察にとらわれた。木座神は、悠々と羽田へ。

九九九五四五二ら二人の死体は直ちに東京大学の病院に運ばれた。死体解剖のため、容疑者の死体は、法医学室に運ばれるはずだった。いかに法医学の博士が待っても到着しない。警察も病院も事件が頓挫してしまった。

 

その裏には、未来の慧眼と深慮があった。整形外科教室の八埼博士は、整形手術に深い造詣のある人だったが、博士によっても、他人の肉体の一部を、他人の体に植え込む研究は、遅々として進まず、悩んでいた。八埼博士は、無性人間ならば、他人の肉体の一部を受けいれるのではないか、と秘かに考えていた。そして未来にその研究の援助を頼んでいたのであった。一人の人間に、他人の肉体なり、臓器を植え込むという行為には、必ず抗体反応をというものが出来て、絶対に肉体の一部を第三者の体に埋め込む事は、うまくいかないというのが、博士の悩みであり、医学の悩みであった。

もしや無性人間ならば、それが可能かもしれないというのが、博士のアイデアであった。そこで、未来に依頼して、二体の無性人間の死体を手に入れてくれるよう、頼んであったのだ。

それで、九九九五四五二ともうひとりの犠牲者の女型が運ばれてきたのだ。二体が運ばれるとき、法医学教室でなく、整形外科の裏口に運ばせたのは未来であった。

「しかも二体も手にいるとはなんと幸運な.おまけに男の方は体がハチノス、おんなの方は脳天のど真ん中に致命傷、だから、男の首と女体をくっつければ、完全な体になって生き返るだろう」

「そんなことが!、二人とも死んでいるんでしょう」

[人間としては死んでいるが、組織としてはまだ死んどらん、体を冷下二〇度以下に冷やすと、組織を損なうことなく、大きな手術が出来る。死体を冷凍室へ]

そういって博士は悠々とラーメンを食べるのだった。

男の体をした、九九九五四五二がさて、どんな人間に生まれ変わるか、と考えながら、未来が家に帰ると、どやどやと人相の悪い人間が入ってきて「警視庁捜査一課のものです。今夜太平天国の外相が襲われた事件に関して、これが逮捕状」とつきつけた。未来は、途端に窓から飛び出し逃げ出した。

 

 大会のプログラム

 

史上最大の戦争ショー

THE GREATEST SHOW OF THE WAR!

無慮4万人の上陸作戦

無性人間特攻隊による大攻撃 大白兵戦!

4月1日

於・小笠原諸島

 

 

以上のような大広告が、世界中のマスコミに、一斉に出された。

大平天国からは、船団が何隻もの輸送船を従えて、小笠原に向けて出港。船中の兵たちはぎゅうぎゅうづめにされながらも、押し黙っている。小笠原に着くと上陸用舟艇で、続々と上陸、それが島いっぱいに配置される。

世界中の好奇の目が、小笠原に向けられ、この小さな群島に続々観光船が到着。島中、人が溢れ、万博とオリンピックが一緒になったような大騒ぎである。

望楼からその有り様を見た木座神は、「前評判も上々だ」と胸を張る。大伴黒主は「明日は招待客も続々やって来る」

木座神は「私は心配なのです、無性人間の反戦同盟の妨害が」

と、未来たちの活動を指していった。

「心配ない、あんな奴らに戦争のことは分らんよ、」と黒主が応ずる。

「君は今度の立役者なんだ、もっと泰然としろ、乾杯でもしよう」

というところに未来という書名で、なにかが届く。

「未来だと」と黒主が驚く。未来は銀座のクラブにいるはずだ。手紙がついていた。

 

「謹んで戦争ショウのお悔やみ申し上げる。四月一日、ショウは収拾のつかない失敗で幕を閉じるだろう。無性人間を代表して、この品物を進呈する」

 

箱を開けるとピストルだの首吊り縄、青酸カリなどなど、気味の悪いものばかり入っていた。

「奴らに何の力があるものか、四月一日までに疑惑分子を一掃しろ」と黒主は電話で運営本部に命じる。

「センスのない、いやがらせ」と木座神は首をすぼめる。未来の写真を以って探させると、「何処の現場でも、こんなツラの人はいくらでもいるよ」という有様で、未来をとらえることは不可能であった。

 

いよいよ世記の戦争のプログラムも発表となった。

 

三月三〇日、三十一日  開戦前夜祭 パレード、花火大会、仮想大会、軍歌祭、祝賀会を華々しく行い、華やかさを誇る企画が並べられた

いよいよ開幕の四月一日は、次のように進行する。

開戦式 午前9時 木座神挨拶、来賓祝辞祝電披露などのセレモニー

宣戦  午後1時 両軍司令官戦闘配置に着く。いよいよ開戦、両軍陣地攻撃。

翌四月二日から、陣地争奪戦。3日からは戦車出動、戦車一機討ち戦展開。

という日程だった。

 

 

開戦前夜の重大事件

 

予定通り決戦の日を迎えることになった。いよいよ明日の朝には戦争ショーが始まるという深夜、東大の八埼教授が、二体の無性人間を付けあわせ、生命のある一体の完全な無性人間を完成させたというラジオ放送があった。それを聞いた黒主はそれを見たさに

「明日の朝には帰るから航空機で、ちょっと東京に行ってくる」と言って飛び立っていった。

大伴黒主が八﨑の研究室についたとき、手術が終わり、患者であった九九九五四五二のベッドを覗いたところ、患者が眼をさまし、「お前は大伴黒主、よくも俺たち無性人間を虐待したな。木座神を羽田の近くで襲おうとした我々を、よくも殺そうとしたな」と立ち上がり、大伴に食って掛かった。

八埼教授が付いたばかりの首が取れてしまう、と止めるのも聞かず暴れるので、八崎教授が「黒主に此処を出てってくれ、実験が無茶苦茶になる」

それでも九九九五四五二は八崎を振り切って、車で逃げる黒主を、タクシーで追いかけて、ついに衝突、黒主は、瀕死の重症で、小笠原に帰還不能。つい朝の戦争ショーには出席不可能となった。

 

一方、未来たち反乱軍も最後の打ち合わせだ。パトロールの手が回り始めたのでもう顔を合わすことはない。「一日午前九時に奴らは開戦式をやることになっているが、我々はその時間花火を合図に、本部と放送センターを占拠する。日本政府が自衛隊を出動させても、観客を人質にすれば、手も足も出ない」そんな話し合いをしたところで、パトロールの危険が迫り、一斉にアジトから脱出。

 

4月1日の朝が来た。主催者が打ち上げる花火が、だん、だーんと鳴り響く。小笠原、父島を埋め尽くした一〇万人の観光客は、一斉に、島の中央にある特設ゲートをくぐった。

それと同時に4万を数える紅白軍が黙々と動き出した。前線基地で戦闘態勢をとるためだ。正午きっかりに戦闘の火ぶたが切られる予定なのだ。各兵団が位置に着いたところで、トテチテター、と高らかに進軍ラッパが鳴り響いた。相棒がいないので、木座神がたった一人天壇のような高い塔に上って行った。

その頃相棒は東京の病院で、目をさまし、「ここは?なんじ?」「ここは鉄道病院、今はちょうど9時」万時窮す。

 

木座神は壇上から「紳士淑女の皆様方只今より無性人間兵士による史上最大にして最初の戦争ショーをご覧に入れます。尚無性人間をお買い上げのお客様には、特別景品として、無性人間の精子を差し上げます」

昔の奴隷市場の親方みたいなことを叫ぶ。次いで各国の宗教による祝詞をあげる。

 

 

勝利か敗北か、ショーマンの死

 

 

まさに九時を過ぎた。観客の間から上流夫人が一人抜け出す。祭り気分を盛り上げ戦争開始の合図となる、花火の打ち上げ場にそっとよってゆく。

「奥さん困りますなあ、花火は正午に揚げるんです」と警備の男が言う。

夫人ははらはらと涙を落として、ハンケチで押さえながら、「私の主人は私をホテルにほっといて、この会場で知り合った女性と、特別席に行ってしまったの」と泣き出した。「だ

が、奥さん花火はいけません」「それじゃ私はどこかに放火をするかもしれません」と武者ぶりつく。警備員は「こういう人はどこに連れてっても始末におえねえなあ」と同僚の警備員と話し、「仕方がない一パツだけでもあげさせてやるか」

それを聞くや否や奥さんは、一発どころか四、五本の花火に火を点けてしまった。花火が戦争開始の合図と、警備員が知ってか知らずか、花火はドドーンと何発も揚がってしまった。

それが未来ら反乱軍の合図であった。

無性人間の陣営は、行動を開始、第一師団、本部に向かって突撃、砲兵隊は砲撃用意、目標本部、放送局及び桟橋、という具合に命令が伝わる。「歩兵部隊は散開、そのまま本部門に突っ込め」と命令が次々出される。本部にいた幹部を倒し、未来はベランダに出て叫ぶ。

「見物の人間ども、自分たちまでショーに巻き込まれたと知ったら……フフフ、これから面白くなるぞ」

見物客は、「なにかあったんですか」と未来に聞いたりしている。彼らは全く騒乱が起きていることを認識していない。

反乱軍の一隊は、放送局を襲う。放送の器具の前で、放送局員は放送の用意をしている。そこにどやどやと反乱軍が駆け上ってくる。局員に銃を突きつける。

「おいこんなのスケヂュールにはないぞ」

「黙れ、貴様たちは捕虜だ。一同屋上にあがれ」片方の技術の人間は「なァ、いくら脚本家の台本が遅いたって、こんなに急に筋が変わるなんてなァ」「まったく脚本家っていうのはでたらめすぎる!」とかなんとか、愚痴っているものもいる。

「こりゃ悪趣味な台本だぜ、ほんとに」という声を聞いて未来は、ほくそ笑んでいる。未来が屋上に上がっていくと、放送局から派遣されてきた幹部連中が、手足を動かさないように首のまわりに、手を上げさせられながら、食って掛かってきた。

「こりゃひどい暴力やないか、何の要求や、ベースアップかボーナスか、暴力はやめときなさい、円満に話し合いといこうや」

未来たちが応ぜず、ぎろりと、睨めつけると、「わかった、君たちの気持ちはよく分った、ワカル、ワカル」と今度は下手に出てきた。

「君たち無性人間は今まで差別に泣いてきた。日本人として申し訳ない、君たちの権利を擁護しよう。そんなら記者会見をして君たちの立場をしゃべってもらう」と、くどくどいまさらになって言い出した。

「いい加減に黙れっ、これはショーじゃないぞ、へらず口叩く奴は、本当に銃殺するぞ」

と筒先をその顔に押し付けた。

 

一方、一隊は開会式の真っただ中に乗り込んでいった。

「見物客諸君、手をあたま挙げてもらいたい」

会場の全員が手を挙げた。反乱軍は一斉に「大伴黒主。木座神、われわれ無性人間はあなた方を拘禁する」

木座神は初めて、この戦争ショーが失敗したことに気づく。彼の周囲には日本をはじめ各国からきた来賓が驚いて立ち尽くす。反乱軍の怒声は続いて、高らかに吠える。

「我々無性人間はあなた方を拘禁する」

こういう時こそ、悪知恵の働く、大伴黒主が必要なのだが、何千里離れた日本の病院で、意識もなく寝ていたのだからしようがない。

木座神に残されたのは、ショーマン木座神のメンツをいかに維持するかの問題だけとなった。まだショーの続きと思っている来賓は、「ありゃ一体何ごとです」と聞く。

「いや、ハハハあれもじつは。ショーの一部です。ショッキングな演出でしょう。その証拠に今日は四月一日ですよ」

「ひゃー、しかし悪ふざけが過ぎますよ」

その時「木座神、大伴出てきてもらおう」とラウドスピーカーに声がかかった。もはや万時窮す、木座神は、ちょっと席を外して、この場を逃げようとした。だがどの出口も、無性人間の兵で、塞がれていた。

 

これで完全に戦争ショーは終わった。逃げ回りながら木座神は、考える。俺は迂闊にも、

外部からの妨害だけを考えて、内からの反乱は考えなかった。俺は失敗した。せめてよびや木座神のメンツだけでも残そう…俺は何とかこのショーをやり遂げて見せる!と彼はとっさの間に考えた。その時未来が壇上に立った。

「観客の紳士、淑女にお伝えする。戦争ショーは中止!ただいまからこの会場は無性人間の臨時司令部が管理する」

と、宣言した。会場は混乱し、大騒ぎとなった。そこに

「待った」と木座神が駆け込んできた。彼はショーマンのメンツにかけて、あくまでこのショーのまま終わらせたいのであった。マイクのところに駆けよって「ただ今からスケジュールの一部を変更いたしまして、特別ショーを展開いたします。題して「無性人間のクーデター!主役をご覧にいれます。無性人間未来、彼は無性人間を率いてこの場所に乗り込みました。さていかな場面が展開するか、みなさんとくとご覧ください。ショー最後の場面です」

 

檀上に一人、木座神は、自らの額に,銃口をあてて、一発ぶっ放した。木座神は壇上から、弾みながら転げ落ちた。

戦争ショーは全て終わった。

 

 

無性人間の大蜂起

 

会場の人間は勿論、無性人間に襲われ、殺されるものも続出という始末。町では略奪のし放題。それを黒人が滑稽そうに眺めている。

総統の太平は、当時黒主や木座神とそりが合わず、放浪の旅に出ていたが、インドシナのビエンチャンという街の顔役の世話になっていた。その顔役は無性人間を、おんなドレイとして使っていた。その女形の無性人間を五、六人寝かせて座ぶとん代わりにして、その上に座り込み、ほかに女形には女の仕事をすべてやらせていた。

そんなことをしているとき、小笠原の情報が入ってきた。ショーが失敗し、無性人間が人間に反抗、憎悪のあまり殺すようになったという放送が入ってきた。その放送が終わるか終わらないうちに、ビエンチャンの顔役の立場も逆転し、顔役はよってたかって、おさえつけられ、たちまち裸にされ、無性人間たちにずぶりと刺されてしまった。

天下太平も人間である。これを見てこっそり放浪の旅に出て行った。

 

人間と無性人間とがくんずほぐれつの闘争する銀座の町中に、ラジオの放送が流れていている。

………ニューヨーク、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリッドで、ほとんど同時に無性人間の暴動が起こり無政府状態になりました。

無性人間たちは商店を片端から壊し、放火しています!それを黒人があっけにとられて見ております。黒人暴動とちがう点は、彼等はそんなに貧しくなく、ただ一般民間人に対する酷い憎しみが、爆発したものと思われるだけに、事態は悪化しています!

なお国連のウ・タント事務総長は、無性人間の代表とあうために、単身オガサワラへ乗り込んだ模様です……

事務総長は、未来ら、無性人間の代表とか会談した。現場に乗り込んだ、ウ・タントは無性人間の代表と向き合い、国連本部からのメッセージを読みあげた。

「この度小笠原の反乱軍に対し、国連は甚だ遺憾に思う.速やかに人質を解放、武器を収めて、国連の指示に従うよう希望する。この通達を無視するなら実力を以って鎮圧する。

しかし聞き分けたら良い子だからゴホービをやろう。」

「なるほどなだめたりすかしたりというところですな。……残念ながらそのメッセ―ジどおり、いい子になる気にはありません。第一われわれは国連となんの関係もないんです」

「しかし君たちは国連に加盟している太平天国の軍隊でしょう?」

「それは総統や首相の話、我々は無性人間ですからね」

「だが無性人間とて人間に違いない」「ちがう無性人間は人間じゃない!!

その証拠に我々を殺しても罪にならない。我々無性人間は人間じゃない!だから人間の法律も、モラルも通用しないんだ」

と怒鳴り返すありさま。

ウ・タント事務総長の説得も効果がなかった。その後も世界各地で無性人間の暴動は続いた。

大平天国の総統天下太平も無性人間に追われる一人だ。ビエンチャンからただひとり放浪の旅へ出た。周りの人間たちは、暴れん坊の無性人間に、つつきまわされたりされている。その間を彼らにあわないように、逃亡、放浪の旅を続けていた。「町中が燃えてネロに火を点けられたローマの街みたいだ」と思いながら。

ある場所で、無性人間が「人間がいたぞ、殺せ」とつかまってしまった。講堂のようなところに押し込まれた。そこには人間の老若男女,老いも若きも一緒に、詰め込まれていた。「カルカッタでも、シンガポールでも、無性人間の革命政府が出来たっていいますね」「私なんか召使いの無性人間に叩きだされたんです」等等、お互いの不幸を嘆きあっているありさまだ。

やがて無生人間のやくざみたいな野郎共が現れて、男と女を別々に並べて、広場のすみにダブルベッドを並べた。

あいつら、俺たちに白黒をやらせて、みるんじゃないか」「そうなんだ、きっと」と人間同士ささやいている。

天下太平は、ビエンチャンのボスの家で知り合った男と巡り合い、そっと逃がしてくれた。

 

無性人間の革命

 

これから三ヶ月放浪生活をするのだが、その間の天下の情勢を簡明に伝えて置く。

無性人間と人間との話し合いが、もたれるようになった。人間の代表に、無性人間の代表が要求を突き付けた。無性人間の暴動に悲鳴を上げていた連中は、話は精々、待遇改善だろうから飲んでやってもよいといっていたが、その要求を見て仰天した。

その冒頭に世界中の人間、すべてに去勢手術をさせることとあった。

人間を滅ぼさないために、あらかじめ精液と卵子は冷凍しておく。其れを試験管に入れて育てればいい。わずかな男女はセックスの鑑賞用にそのまま残しておく。そんな要求を人間が承知するはずがない。それでまた両者間の武闘が開始された。その軍用に無性人間は、人工授精で育った少年兵をつかった。しかもその子達は人間の子供たちを味方に引き込んだ。

人間の子供たちは自分の親を摘発、強制的な手術をうけさせた。こうして3ヶ月にして世界中の人口の半分が去勢された。

去勢されると人間はしなしな、なよなよとした、喧嘩も争いもしなくなる。無性人間よりもっと従順で大人しくなってしまう。

その柔軟人間を、今度は無性人間として使おう、という方策であった。

 

そういう実態を、無性人間の一部から聞かされた天下太平は、俺だけは去勢せんぞ、と青い木々が茂る山のほうに、一人で去って行った。行き着いた草原は、どこかでみたことがあるような気がする。

「そうだ、パイパニアだ。俺が脱走兵の時散々逃げ回った土地だ。その間に大伴黒主と会い、協力してパイパニアのヘリコプターからの機銃掃射から逃げ回ったところであった。

今当時と同じようなことが、行われている。低空を飛ぶ無性人間のヘリから大音声が響き渡る。

「人間ども集まれ!この草原に逃げ込んだ人間どもに告ぐ!速やかに去勢手術をうけよ…。

十秒のうちに、ヘリコプターの下に集まれ」

だがそれに従うものは少ない。逃げ回る人間たちに、ダダダダと機銃の雨が降る.ここでも多くの人が死んでゆく。

「歴史は繰り返すか」岩の陰に隠れた大平の目から涙がこぼれる。 

 

一方、こちらは東京のど真ん中を、こそこそ逃げ回っている、背の高いほっかむりの男がいた。路地から路地へと駆け抜けてゆく。ひげをそる前の男の指名手配書が壁にかかっている。やはり大伴黒主であった。彼が逃げ込んだのは、八城教授の研究室だった。大伴博士、あなたの知識によって、あと一か月もすれば、無性人間に画期的な手術が出来るようになる、つまりホルモンと生殖器を操って、無性人間を有精人間にすることができるのです。それまで貴方にいて貰いたいのはやまやまだが、そうもゆかないのは、残念じゃ」

「ごきげんよう。ご成功を祈ります」

黒主は、様様な策を講じて逃げようとしたが、ついに捉えられ、太平天国に護送された。

その大法廷、黒主が無数の無性人間を、死の道にさばいた場所と変わらない。その大法廷の被告席に彼はたった。

「俺は無罪だ。俺は学究の徒だ。君たちに直接なにもしなかった、すべてキミたちを迫害したのは、木座神が命令したんだ。」

「後ろを見ろ」

「あの傍聴人の目を見よ。あなたを無罪と認めている眼ですかね」

証人として、今は去勢されて、婆さんになりきっているリーチ夫人が証人として出廷した。意志だけは何とか通ずる。「この黒主と知り合って、破廉恥な計画をたてのではないか、学術研究という美名に隠れて、無性人間の大量生産に乗り出したのですね」

老婆からは、肯定の返事が出された。そして第一期の無性人間の生きのこりが証人となって、ずらりと並んだ。かれらの苦労の証言が、決定的有罪の証言となった

 

 

 

総統太歓迎

 

 

そのあと、太平天国に到着したのは、元総統天下太平であった。厳重に目隠しされている。

「ここは太平天国だろう、海風の匂いで分かる。俺をとらえてすぐ去勢しないで、ここへ連れてきたのは、どういう了見だ」

「今にわかります、逃げたりなさるとよくありませんよ」

「この室内から出ないように」と目隠しも縄もとかれ、彼が自由に動けるようにした。「この部屋から絶対に出ないようにしてください」

「俺と一緒に捕まった男はどうしたね」「あれは要注意人物ですから別の場所に」

ひとりになった太平は考える。大平天国の総統ともなれば、本格的な裁判の上、有罪、死刑には恐らく、むごい方法が用いられるだろうな。それも運命か……。その時部屋に入ってきた者がいる。傍へ寄ってくる。何と未来ではないか。

「未来!」

「ぱぱ!」

二人は,ヒシと抱き合う。「会いたかったぞう」

「ほかの子はともかく、お前だけはおれのせがれだったのだ」

未来は合図した。「よーし、みんなにはいってこい」

隣の部屋から無数の無性人間が、パパと叫びながら、飛び込んできた。「わっしょい、わっしょい」と太平を担ぎ上げ、やんやの大騒ぎとなった。未来は言う。

「なぜ、未来だけがせがれなのですか?太平天国五〇〇万の国民は、皆あなたの子ですよ」

「じゃ俺を許してくれるのか」

そのころ大伴黒主に最終判決が下った。有罪。処刑は最高のせめ道具。死ぬまで其れに掛ければいかに苦しむか。それは天下太平が二〇兆という精子を抜き取られた、精子絞り機だ。「では諸君さらば、人生よ」黒主も最後は潔かった。

その時大伴黒主処刑の報が太平に伝わった。大平は「黒主よさらば」涙を流した。現場に行った大平は未来に、

「いくらなんでも絞りの刑とは酷すぎるよ。助けてやって」

すると未来は言った。「パパはママを殺した犯人を叩き殺せと言ったでしょう」

「大伴黒主が犯人だったのか」

「そうです、ママを消す計画を立てたのです。」

「リラ、これでお前も本望だろう、せがれが仇を取ってくれたんだぞ」と、涙を落とす。

「パパ、すべては明日だ、今夜はぐっすりおやすみなさい」

「しかし今日はいろんなことがあったし、俺は興奮して寝られそうもない」と太平は淋しくもあり苦しくもある。思い出されるのは、リラのことをはじめ大伴、起座神のことばかりである。

 

 

 

 未来のコペルニクス的転換

 

 

未来は一人進化始めた。こういう時には男女に分かれていれば、女の子を大勢呼んで、飲んだり、食ったりして、最後はセックスで楽しむことができる。やっぱり、セックスは大切な事だったかもしれない。月の浜辺に出て歩きながら、未来は真剣に考え始めた。

我々無性人間は、人間を皆去勢することで、気をなぐさめて来たのではないか、と考えこむ。

だけど、どうして逆に、我々が有性になろうと考えなかったのだろう……これが未来の考え方のコペルニクス的転換になったのだった。

それが可能か。セックスチエンジや心臓移植まで、できる今の医学なんだ。出来ないはずはない……そこまで未来が考えたとき、大勢の人がやってくる声が聞こえ、未来を大声でよんでいる声が聞こえてきた。

「この騒ぎは何?」

八、九人の男女だった。彼らを連れてきた、無性人間の青年が、「八崎博士のお蔭で、中年の男と無性人間の娘が恋に落ちて、結婚の話まで出て、お騒ぎとなった。男は去勢手術もせずに、逃げ回っておりました。」

「何故そんなことでここに連れ来たのさ」と未来が聞く。「女の方が無性人間だからです」

「無性人間と人間お恋とはめずらしいね」

「それはこの東大の整形外科の教授が、この女形無性人間に(起性手術)を、つまり性を持たせる手術をしてしまったのです。」

一緒についてきた八崎博士は 「これはわしの画期的な研究だ。」と胸を張る

これによって無性人間を有性にできることが証明されたわけだ。ことは重大だ。未来は教授に言った。

「教授、前に大学でお会いしましたね」「おお、あんたはわしの教室に無性人間を二体持ち込んでくれた女性じゃね、その時の無性人間がそいつだ、女にして生き返らせてやったんだ」

「あんた九九九五四五二かね」

相互に口もきけないほど驚く。「あいつ命を救ってやり、セックスの喜びを与えたんだ」

未来はすぐ決意した。わたしに起性手術をすぐやってくれ、その代りもう一度今度は去勢手術をやってもらう」「その手術をやらせるのに、実験台に誰がのるのだ」「私だ」「エッあんたが」

未来はそれにこたえて次のような演説をする。

「私は好きで手術を受けるのではない。性を持つことが、いかにグレツであるかということを、身を以って体験したい。男と女というものが、不潔で淫乱で、いかに犯罪的かということを、わが身を以って試してみるのだ。そのあとすぐまた去勢手術してほしい」

博士は二〇日ぐらいかかるだろう。それでよろしければ引き受けようという。これではなしはきまった。そこに、心配して天下太平が、飛び込んでくる。博士は太平をなだめて、ご心配なくと、自信を持って答える。

「飴細工だね、まったく」といって引きさがる。一〇日間手術室に入ったままだった。

 

未来は、パッと目が覚めた。歩き出すとズボンに何か引っかかって邪魔になる。そこに九九九五四五二がいた。

「私はセックスがいかにグレツであるかを証明するために自分から進んで男になった!すぐまた去勢を受けるが……」と女の顔を見ているうちに、今まで経験した事もない気分になってくる。

「気分が悪い」「こんな気持ちは……」と言いながら体は、九九九五四五二の方によってゆく。ついはふたりは抱き会う。そして口と口とが……。

そこに八崎が入ってくる。「こんな所で何をしている。さっさと病室に還らんか、」

そのときはすでに九九九五四五二の上にまたがり、男女の行為を始めている。「こいつもう女に手を出しゃがって、言うことを聞かんと無性人間に戻してしまうぞ」と八崎は脅かす。する未来が叫ぶ。

「いやだ、いやだ、無性人間に戻るくらいなら、舌をかんで死んでやるぞー」

 

一方、天下泰平は自分の部屋で、この世の味気なさに耐えられない、もう命を捨てようと、手記を書いている

人間の文明なんていろいろの暦に照らしてみれば、結局男と女の戦いで築きあげたもんや無いか。と歴史を振り返り、それが無性人間の世の中になってみろ…、恋もなく、しっともなく、情欲もない、浮気もない、Hな話しも、あの楽しみもない、そんな味気ない世界とはお別れだ……。そう書いてひとり旅に出ようとすると,道中、未来にぱったりあった。

「パパを驚かすことがあるんだ、パパ、俺、結婚するよ」

「結婚?」パパは大仰天「人並みな事を言うなよ」

「これが相手です。元九九九五四五二です。愛し合っているんです」「愛し合う?無性人間のくせにそんなこと言えたガラか」「もう無性人間ではありません。セックスも結婚もできます」

太平は、二人の愛しあう姿を見て、自分も嬉しい気分になる。パパ祝福してください」「でかした未来よ、どうやって祝福すればいい」

「パパに全世界の無性人間に放送してほしいんです。未来に習って前無性人間が起性手術をうけろと命令してほしいんです」

「そんな事言ったって誰も聞きゃしねー」

「いや絶対聞きます。無性人間はパパの命令には本能的服従するからです・」

早速その起性放送を始めた。

 

 

直ちに既成手術をうけよ

 

「全世界の無性人間たちに告ぐ!直ちに起性手術受けるために太平天国に集まれ。手術の前に男か女か、自分の性を選んでおけ!

それから人間の去勢手術は本日かぎり、中止せよ」

この放送は世界いたるところに染み渡った。

こうして無性人間はひとりひとり消えていった。去勢者も同じように……。こうして新しい男女が胸を膨らませて門出をしていった。八埼教授だけは目を回したが、世は平安となって、未来と九重(元九九九五四五二)は新婚旅行に旅立っていた。大平天国はその名の如く天下太平となった。太団円でこの漫画はおわった。

銀座のバーパイパニアは経営者も変わって続けてきたが、ニヒルな常連客が、何十年すれば、また新たなセックスの問題で、嵐が世界吹き荒れるよ」

と、常に言っているそうだ。

……………

以上で、大作「人間ども集まれ」という作品の概略とその解説を終わる。この概略を書いてみて驚いたことがある。手塚漫画の日本語の文章化ということが実に難しい、ということである。小説でいうと文脈、漫画だから漫脈と言ったらいいか。その漫脈を、日本語の文章化するときに、実に困難を感ずる、ということである。そこに手塚の個性の強い漫画表現の秘密があるように思えてならない。

この手塚作品の解説を書きながらその点に一番苦労した。要するに散文化しにくい表現、それも手塚の特色の秘密があるようだ。それはおいおいのちに進めるが、次回から、「人間ども集まれ」という大作の分析、、存在意義について書く。〈続く〉

 

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