Web遊歩人

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“10月31日” 「蚤の目大歴史366日」 蚤野久蔵

  • 2013年5月8日 23:46

*1919年  パリの古美術オークションに<フランス王・アンリ4世の首>のミイラが出品された。

モンマルトルの古美術商が入手したもので鑑定では「300年ほど前に殺されたアンリ4世のもの」とされたが決め手に欠けたのか、気味悪がられたか結局、引き取り手がなかった。本物と信じて疑わない古美術商はルーヴル美術館に寄贈しようとしたが断られ、ゴシップ記事の片隅を飾っただけで終わった。

アンリ4世とはどんな人物だったかをおさらいしておく。宗教改革による戦乱に揺れる1553年に生まれ、カトリックがプロテスタントを大量虐殺した聖バルテルミの虐殺(1572)に巻き込まれたが改宗することでかろうじて難を逃れた。父のアンリ3世の暗殺で王位を継ぎブルボン朝の初代国王になった。ナントの勅令(1598)を発布してカトリックとプロテスタントの融和に努め40年続いた宗教戦争を終結させた。疲弊した国の再建を進めるなか1610年5月14日に狂信的なカトリック信者に暗殺され、サン=ドニ大聖堂に埋葬された。国民の人気が高く「大アンリ」とか「良王アンリ」と呼ばれた。

それならオークションに出されたミイラは<偽物>だったのかと思われるかもしれない。ところがフランス革命後の1793年に墓が暴かれ頭部が切断されて行方不明になった。当時なお名君として人気があったから熱烈な<信奉者>が持ち去ったものとされた。それがひょっこり出現したというわけだ。

さらに後日談がある。2010年、個人コレクションとして秘蔵されていたこのミイラが出てきた。さっそくアンリ4世の研究者や法医学者、化学者など19人の専門家チームが結成されて鑑定にあたった。ジャンヌ・ダルクのものとされていた遺体が別人と鑑定した法医学者のフィリップ・シャルリエ博士もいて最新の科学的手法が駆使された。その結果、骨格から<復顔>した顔が生前の肖像画と一致したことやデスマスクと骨格の合致、描かれた鼻のホクロや耳たぶに開けられたイヤリング穴が同じ位置に確認された。さらに当時のフランス王族に使われた遺体の防腐処理用の薬剤成分や年代鑑定、以前の暗殺未遂事件で受けた唇の傷跡があったことでアンリ4世本人のものであると確認した。

それで再度オークションに?いえいえ、今度はサン=ドニ大聖堂に戻されたようです。

*1940=昭和15年  午後10時を期して東京都内6カ所のダンスホールが閉鎖になった。

警視庁による「風紀取締強化策」として7月31日に発表され、3か月の猶予期間が満了になった。風雲急で<時局に合わぬ>とやり玉に挙がった各ダンスホールには専属のダンサーがいて踊りの相手をつとめた。1曲約3分でチケット1枚、チケットは10枚つづりで1円が相場だった。当局は最初から目をつけていたから「必ず軍国歌謡をバンド演奏すること」から始まり「出入り客の記名捺印」そしてとうとう「全面閉鎖」になった。

この日はどのホールも超満員で最後の『蛍の光』でラストダンスを踊ったあとも客はなかなか帰ろうとはしなかった。ダンサーたちもそれぞれ身の振り方を考えなければならず、他の水商売に転じたり故郷に帰ったりとさまざまだったが工場や事業所など生産の場に転じるのはまれだった。大正末年の開設以来踊り続けていたダンサーも多かったから無理からぬことだったか。

翌日からたばこの「バット」は「金鵄」に、「チェリー」は「桜」に。文部省は「絶対音感教育」を進めるという名目で、明治時代以来の「ドレミハソラシド」に替え<音名唱法>として「ハニホヘトイロハ」を採用すると発表した。この年流行った標語は「八紘一宇」「新体制・臣道実践」「南進日本」「一億一心」。

*1884=明治17年  埼玉県の秩父地方を中心とする「秩父事件」が起きた。

竹槍や鎌、斧、刀、猟銃などを武器に集まった農民数千人がいっせいに蜂起した。弾圧されて地下に潜った自由民権運動の自由党の旧党員やシンパらを核とした「秩父困民党」で「金のないのも苦にしやんすな、いまにお金が自由党」と唄いながら郡役所や警察などを次々に襲った。政府は軍隊を送って鎮圧に躍起だったが長野県の飯田や名古屋でも政府転覆計画が発覚したから政府首脳は「まるでフランス革命の前夜のようだ」と困惑した。

*1918=大正7年  一高生の川端康成は伊豆・修善寺温泉から友人に絵はがきを出した。

初めての本格的な旅行に伊豆半島を選んだ。最初の宿が修善寺温泉で「思ったほどよいところではありません」と書いたが翌日、天城峠の「トンネルの出口」で太鼓をさげた踊り子たちに出会う。伊豆大島からやってきて温泉場を巡る旅芸人の一行で、鬱屈した心を抱えて同じように旅をする<私>はそのひとり、いちばん若い薫という少女に魅かれてゆく。トンネルの闇から光のなかへ。青年が大人に脱皮する旅のひととき、ロマンチックな出会いと別れが『伊豆の踊り子』に。

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